近年、老朽化したオフィスビルや商業施設の建替えのニュースが続きます。
同様に「自分たちのマンションも古くなったらそのときは建替えればいい」とお思いの方もいるようですが、そんなに簡単にできるものなのでしょうか?
合意形成や建て替えの資金の調達等、そこにはいくつものハードルがあります。
ここでは、マンションの建替えとその実現可否について、マンション管理コンサルタントが解説します。
建替えをめぐる日本の制度について
アメリカ、ドイツ、フランスなどの先進国では、老朽化して維持管理できなくなったマンションの終末を「区分所有権を解消して敷地を売却」と想定しているのに対して、日本の区分所有法では、老朽化したら5分の4の賛成決議で建て替えることを前提にしています。
とはいえ、平成26年の「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」の一部が改正された際のデータによれば、国内のマンションはストック総数601万戸(うち約106万戸が旧耐震基準)、建替えの実績は累計で 196 件(約 15,500 戸)でした。
ほとんどのマンションで建て替えができていません。
2016年9月、都市再生特別措置法が一部改正されました。
これは主に住宅団地の建て替えの促進を目的としていますが、適用されれば建て替えのハードルはずいぶん低くなるかもしれません。
当時の国土交通省の発表によれば、旧耐震基準の約50万戸がこの市街地再開発事業の対象になるとされています。
とはいえ、実際に再開発事業を決定するのは各自治体であり、それぞれの判断基準に差も生まれるであろうことから、実際にどれだけの団地が該当するのは不透明です。
家余りの時代、増床・増戸数たよりのビジネスモデル
次に、資金の問題。
マンションの建て替えについては、増床・増戸数により、その分譲費用を建替え資金の一部に充当するという考え方が一般的です。
例えば今50戸のマンションであれば、建替えにより100戸、150戸と現状の2倍、3倍に戸数を増やすことができれば、もとの所有者は少ない資金負担で建替えに参加することができます。
ですが、これからの少子高齢化、今現在の国内の空き家事情を鑑みても、家はどんどん余っていく時代。
増床・増戸数を前提としたこの建替えのビジネスモデルは、明らかに時代背景に反したものともいえるでしょう。
また、地域や建物によっては、50戸しかたってないところに新しく建てても同じ50戸とか、既存不適格のマンションであれば、建替えることによって35戸になってしまうケースもあるのです。
増床・増戸数ができなければ、新たなマンションを建てる施工費だけでなく、解体の費用も加え、すべて自分たちだけで何億円もの資金を準備しなければなりません。
規模や建物にもよりますが、50戸くらいのファミリータイプのマンションで、取壊し費用、設計費用、建築費用、建替え中の仮住まいの費用等も含めると、一世帯あたり少なくとも5,000万くらい用意しないと厳しいでしょう。
20年後の建替えを考えたとして、20年で5000万円を積み立てるとなると、毎年250万、月に20万以上必要になる計算です。
実現の可否を確認した上で、終活を考えましょう
市街地再開発や円滑化法の割り増しが得られるような総合設計制度が利用できるのは、ごくごく恵まれたマンションと言えるでしょう。
お住まいのマンションがエリアや土地の規模などからどのような建て替えが実現できるのか?その実現の可能性を確認した上で、実現できるということであれば築35年〜45年頃に方針を決定し、資金の積立の開始しましょう。
実際にお住まいのマンションの建て替えをお考えの方には厳しいお話だったかもしれませんが、大事なのは制度を知り、その実現性を把握しておくことです。
実現可否を早期に知っておくことで、早急に舵を切ることができるのです。
実際に建て替えができるのかどうなのか?居住者はこの先どうしていきたいと思っているのか?を確認し、マンションの行く末の方向性をなるべく早く決めることをお勧めします。
管理規約などのルールだけでなく、建物に関することや住民のスムーズな合意形成の手法など、幅広い知識を持つマンション管理士に相談するといいでしょう。